基本的な事柄ですが、証明が見つからなかったので勉強を兼ねて証明してみます。
補題
線形位相空間 (topological vector space, tvs) $X$ において、実数 $a$ と $X$ の任意の元 $x$ の積 $ax$ は $a \rightarrow 0$ の極限で零ベクトルに収束する。 すなわち、$ax \rightarrow 0$ となる。
証明
距離や可算公理が使えない素の線形位相空間でこの補題を証明するのは厄介です。
線形位相空間において掛け算 $* : \mathbb{R} \times X \rightarrow X$ は連続関数だから、 変数の片方を固定した関数 $f : \mathbb{R} \times x \rightarrow X$ もまた連続関数となる [松坂 問4.5.17]。 したがって、$a \rightarrow 0$ のとき $f(a) = ax \rightarrow f(0) = 0$ となる [Willard 11.8, Aliprantis 2.28]。
命題 5.63 [Aliprantis]
線形位相空間において、原点の任意の近傍は併呑 (absorbing) である。
ここで、空間 $X$ の部分集合 $A$ が併呑であるとは、$X$ の任意の点 $x$ に対しある正の値 $\alpha_0 > 0$ が存在し、 $\alpha \geq \alpha_0$ のとき $x \in \alpha A$ となることを意味する。
証明
まず併呑集合の定義を読み換える。
上記の説明で $x \in \alpha A$ ということは、$x / \alpha \in A$ であることに等しい。 また、これは任意の $x$ に対してある正の値 $\beta_0 > 0$ が存在し、$0 < \beta \leq \beta_0$ のとき $\beta x \in A$ となることを意味する。
ここで、$X$ の有向点族 (net) $(\beta x)_ \beta$ は $\beta \rightarrow 0$ で零ベクトルに収束するから、 零ベクトルの任意の近傍 $V \in \mathbb{V}(0)$ に対してある $\beta_0$ が存在し $0 < \beta < \beta_0$ で $\beta x \in V$ となる。 $V$ が併呑ではない場合、任意に小さい $\beta > 0$ が存在し $\beta x \notin V$ となるため矛盾する。 したがって原点の任意の近傍は併呑集合である。
参考資料
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松坂 和夫,“集合・位相入門”,岩波書店,2018.
https://www.iwanami.co.jp/book/b378347.html -
S. Willard, “General Topology”, Addison-Wesley Series in Mathematics, Dover Publications, 1970.
https://store.doverpublications.com/0486434796.html -
C. D. Aliprantis and K. Border, “Infinite Dimensional Analysis: A Hitchhiker’s Guide”, Springer-Verlag, 2006.
https://www.springer.com/gp/book/9783540295860